・第1回 西洋医学におけるEBM(根拠に基づく医療)の考え方

【受講のポイント】
1. 1990年代後半より医療の現場で重要視されてきたEBMとは何か、その概念について学びます。
2. EBMを実践するためのプロセスについて学び、本講座の目的について確認します。

【1】→【2】EBMの実践プロセスの概要

【1】西洋医学におけるEBMの考え方

 近年わが国でも、健康の維持・増進のための予防医学の必要性が唱えられると共に、西洋医学と相補・代替医療(CAM: Complementary and Alternative Medicine)を融合させて個々の患者に最適な医療を提供する統合医療(Integrative Medicine)への取り組みが始まりました。最近では、統合医療という言葉を耳にする機会も多くなり、統合医療を目的としたクリニックも現れて、その重要性は日々認知されてきています。私たちが関わっている植物療法は代替療法のひとつであり、これらのCAMや統合医療の要素として、その進展に重要な役割を持ち得ることが期待できます。
 一方、時をほぼ同じくして1990年代後半くらいから、医学界ではEBM(Evidence Based Medicine)という言葉が聞かれるようになってきました。「根拠(エビデンス)に基づく医療」と訳されるこの言葉は、今では医師を初めとした医療スタッフ、医学関係の研究者などの間での共通語として確実に定着しつつあります。
 このような背景の中、植物療法の分野でも、研究や情報発信、療法の実践など様々な場面において、EBMの視点に立つことの必要性が生じています。第1回目の講座では、まずはこのEBMの考え方についての理解を深めましょう。

1. EBMとは何か
 EBM(Evidence Based Medicine)は先述の通り、「根拠(エビデンス)に基づく医療」と訳されます。つまり、曖昧な経験や主観、直感に頼るのではなく、科学的なエビデンスに基づいて医療を実践していくことであるといえます。
 EBMの基盤として、臨床疫学(Clinical Epidemiology)という研究領域があります。臨床疫学とは「人間の病気が起こりやすい状況(機能的であれ、器質的であれ)について研究する科学」という意味で米国のJohn R. Paul が1938年に最初に用いた言葉です。彼は当時から、臨床医が疾病の社会的背景をもっと考慮する必要があることや臨床研究において個々の患者から得られた知見を集団のデータとして定量的に表すことの重要性を主張していましたが、その頃の医学研究の潮流には合わずなかなか受け入れられませんでした。その後、米国エール大学のAlvan Jr. Feinsteinが患者集団における診断・予後・治療などに関するデータを定量的に解析することによって個々の患者での適切な臨床判断が可能になると考え、1968年に臨床疫学という学問の重要性を改めて提唱して今に続いています。
 EBMという概念はこの臨床疫学の分野で生まれたものです。カナダのマクマスター大学の臨床疫学の研究グループがEBMの基盤を作り、その後発展してきたのです。EBMという言葉は、同大学のGordon Guyattによって1991年に初めて用いられたもので、同大学のDavid L. Sackett(現オックスフォード大学教授)によって「入手可能な範囲で最も信頼できるエビデンスを把握した上で、個々の患者に特有の臨床状況と患者の価値観を考慮した医療を行うための一連の行動指針」と定義されています。

                                      …続く

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Text by Shio Murakami


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